@phdthesis{oai:konan-u.repo.nii.ac.jp:00003461, author = {西田, 芳正 and NISHIDA, Yoshimasa}, month = {2019-12-14, 2019-12-14}, note = {令和元年度(2019年度), 貧困は地域的に集中して現れる、つまり、特定地域に貧困層が集住する傾向が見られる。そこで営まれている生活と子どもから大人への移行過程の具体像を捉えることが、貧困対策、有効な支援策を考える上で不可欠であるが、貧困層が多い地域は生活水準・生活空間両面で貧困層と隣り合って暮らす人々が生活する場ともなっている。そこで本論文では、貧困状況にある人々と「隣り合う」人々がともに生活する地域に焦点を当て、地域が形成される過程にまでさかのぼり、地域でいかなる生活が営まれ、そこで育つ子どもがどのような経験を経て大人の生活に至るのか、つまり、地域形成、生活展開と移行過程を明らかにすることを課題とする。 本論文の構成は以下の通りである。上記した課題を1章で設定した後、同様の課題を追求した95年の調査をもとにした論文を2章とし、3章ではそこで残された課題を踏まえ新たに調査すべき地域として公営住宅集積地を設定した。続く4、5、6章で3つの地域を対象とした調査の結果を示し、さらに当該地域での移行過程の典型例として問題行動を学校内外で繰り返す「ヤンチャ」な子ども・若者に注目しその特徴を7章で、中学校で生起する「荒れ」が収束するまでの過程を8章で描いた。終章で知見と課題を整理し、付章として生活史と観察を組み合わせた調査手法について述べている。 以下、1章を除く各章の概要を記す。 2章では、関西で「文化住宅」と呼ばれる木造賃貸住宅が集積した地域に移り住んだ階層的背景の低い人々が、近隣と親族のつながりを重視し、現在の生活の充実を優先し、子どもに高い教育達成を期待する度合いが低い、「のんびりした暖かい世界」を形成していたことを明らかにした。 この調査では大人の地域での生活を描けていないという課題が残され、また、現代日本の状況を考える上で有益な地域をあらためて調査対象とする必要がある。3章では、国勢調査データの分析から貧困層が集住する傾向が顕著に見られる地域として公営住宅集積地の存在を確認し、調査対象地域として設定した経過を述べている。 4章でとりあげる北地域は単一種の公営住宅のみで構成された大規模団地であり、団地建設直後には生活施設の実現を目指す住民運動とともに、子育てをめぐる互助、親睦活動が展開されていた。建設初期から大量の転出が確認されたが、団地に残った人々の語りからは、現在の充実とつながりを重視する、文化住宅街で見出されたものと同様の生活スタイルが確認された。高齢化と「福祉住宅」政策により地域活動の新たな担い手が得られないという課題に直面しているが、初期から残るリーダー層による活動が継続されている。 5章で扱う西地域は、地域に所在する児童養護施設を取り込んで多様な地域活動を展開している点がユニークであり、港湾労働者家族、公営住宅住民が多く居住し強い共同性を培っていた点がその背景として重要な要因となっている。住民の地域への評価も高いが、少子・高齢化の深刻化に加えて、現在進行中の高層住宅への建て替えが共同性を低下させることが危惧される。 6章で描く南地域は、地理的条件から周囲と隔てられた感のあるエリアに戸建て住宅、マンションも加わった住宅の混在地域となっている。ここでも初期段階から活発な地域活動が展開され、新たに来住した人々による活性化の取り組みもみられる。子どもへの教育期待が高いものではないほか、地元への愛着感情が強く持たれ、地域への定着傾向、他出し戻ってくる住民が多いことも特徴である。 3地域に共通する特徴を終章で整理している。活発な住民活動が展開され、特にそのテーマとして「子ども」が強調されている点が共通に見られた。建設当時の子どもが非常に多かった時期には、個々の家族だけで子育てを担うことは困難で近隣の互助ネットワークが不可欠であり、「子どもを探す」など共通のエピソードが語られたように、子どもを無事に育てるという課題を解決するために住民自らが組織的な活動を展開することが不可欠であった。また、「自分達の子ども」、「子どもは地域の宝」といった言葉が住民の間に根付いており、親から「ほったらかし」にされている子どもを見守る取り組みなども含め、子育てを終えた住民達が積極的な活動を担い続けている。活動の「楽しさ」が共通して語られており、課題解決のための共同的な活動が担い手の充実感とつながりを強化するという、自治コミュニティと親交コミュニティが連関して実現していることが読み取れる。 こうした特徴を持つ地域社会で、子ども達はどのような経験を重ねつつ大人になっていくのか。7章では「ヤンチャ」な子達に焦点を当てた。先輩や他地域の子と「つながり」を結び、ツレ(仲間集団)の世界を重視する。困難さが重層する「しんどい」家族だけでなく、家族との関係を十分に結べない子ども達もヤンチャの世界に入りがちである。学校に「気まま」な「楽しい」行動を持ち込む子ども達は教師との間で対立を繰り返し、「頭ごなし」に叱る教師が特に反抗の対象となるが、同時に「理解して欲しい」志向を持つ生徒達とコミュニケーションをとることができる教師は、ヤンチャな子達にとって重要な助言者、支え手となっていることも見出せた。さらに、学校での勉強に重きを置かず、働いている先輩達をモデルとし、地域の大人も含め豊富なネットワークに支えられながら仕事の世界に移っていく若者達の移行過程を、「自然な移り行き」と名づけた。 8章では、ヤンチャな子達や勉強に重きを置かない多数派の子ども達が引き起こす学校での「荒れ」た状況を前にした教師達の取り組みを描いている。「乗り越えられ」、「学校ではない」状況にまで事態が悪化する背景に、教師達があらかじめ抱く地域への否定的な評価が関わっており、教師の「動きの悪さ」が生徒を「ほったらかし」にし、さらなる事態の悪化を招くという悪循環状況にあったことが確認された。事態の改善には明確なリーダーシップをとる教師の存在、子ども・親との信頼を取り戻す地道な動き、さらに部活動を通して生徒を学校につなぎとめ、自信と誇り、責任感を育てる取り組みが奏功したことがあげられる。 以上、各章の知見を整理してきたが、あらためて貧困層と「貧困と隣り合う人々」がともに暮らす地域という観点でポイントを整理しておく。低学力や学校の「荒れ」など、教育を重視する人々が回避したいと考えがちな地域に留まり定着する、愛着感を抱きさまざまな地域活動の担い手となる住民がおり、「ほったらかし」の子も見守る地域が維持され、大人への移行を促すネットワークも機能している。こうした地域の存在が、地域での貧困・排除問題の顕在化を抑えていることが想定される。 しかし、こうした地域の共同性が維持されるためには、活動の担い手の存在と住民構成の問題が大きく関わっている。「福祉住宅施策が続けば地域は疲弊する」というリーダー層住民の声は切実であり、住宅政策の転換が求められる。また、より安定した移行、大人の生活を実現するために、現実にある地域と生活に即した学校教育からの働きかけも必要である。 今回対象とすることができた公営住宅集積地に共同性が保持されてきた条件を探るために、困難状況がより顕在化した他の地域を比較対象とする必要がある。また、「自然な移り行き」を可能としている若者達が働く仕事の世界が、その後の大人としての生活を支えるものとなっているのかどうかを探ることなど、残された重要課題について今後引き続き検討する必要がある。}, school = {甲南大学}, title = {公営住宅集積地の地域形成・生活展開と移行過程}, year = {}, yomi = {ニシダ, ヨシマサ} }