@misc{oai:konan-u.repo.nii.ac.jp:00003223, author = {稲月, 正 and Inazuki, Tadashi}, month = {2019-02-08, 2018-12-08}, note = {平成30年度(2018年度), 生活困窮化が現在、拡がりを見せている。「生活困窮化」とは、経済的貧困と、社会的孤立と、生きる意欲の喪失とが複合的に進行する過程のことをいう。この問題に対応するためには、国レベルの生活保障制度の拡充と、地域レベルの仕組みづくりが必要となる。このうち本論文は、地域レベルに焦点をあてる。福岡県北九州市に拠点を置くNPO法人「抱樸」が長年、ホームレスや生活困窮者を支援するために行ってきた「伴走型支援システム」を事例に、生活困窮者支援に関する諸問題を考察する。本論文の構成は、「序章」と「結章」の間に、5部立て13章と5つの補論が置かれている。  序章「本研究の目的と基本的視座」では、本論文の目的が、生活困窮状況の確認、伴走型支援システムの定位、伴走型支援システムの効果の検証および課題の提示にあることを述べる。また、補論1「NPO法人抱樸について」で、「抱樸」の概要を紹介する。  続く第Ⅰ部「生活の困窮化と伴走型支援システム」では、第Ⅱ部以降の議論の前提を示す。まず第1章「生活の困窮化とその背景」で、生活困窮化の現状を各種データから確認する。生活困窮は1990年代後半以降、顕著に拡大した。その原因は、高度経済成長期に成立した企業、家族、教育、国家からなる日本型の生活保障システムが、経済・社会的環境の変化によって大きく変動したことにある。  第2章「伴走型支援システムの機能と仕組み」では、伴走型支援システムの機能と仕組みを述べる。伴走型支援システムは、家族機能をモデルとする支援である。マクロな福祉制度とミクロな個人とをつなぐメゾ・レベルの領域に焦点をあてる支援であり、とりわけ社会的孤立の解消がめざされる。なお、本章を補う形で、補論2「『ホームレス自立支援法』と『生活困窮者自立支援法』」で、伴走型支援システムをマクロレベルで支える2つの基本法を解説する。  第3章「伴走型支援システムの基礎理論」では、本研究の基礎理論として都市社会学的生活構造論と生活様式論を提示する。「都市的生活構造」とは、生活主体が生活問題の解決に向けて主体的に社会財を整序するパターンのことであり、これを地域の側から見ると「生活様式」となる。  第Ⅱ部から第Ⅴ部までは、伴走型支援システムの効果の検証である。パートの順番は、「抱樸」の伴走型支援システムが徐々に形をなしていった過程にほぼ対応している。そもそも「抱樸」は1988年、ホームレス支援からスタートした。そこでまず、「抱樸」のホームレス支援から検討を始める。第Ⅱ部「ホームレス自立支援―伴走型支援システムの形成」、第4章「北九州市におけるホームレスの生活状況」では、各種ホームレス調査のデータから経済的貧困と社会的孤立と社会意識の間に有意な関連があることを見出し、この関連性を本研究の基本的視座に据える。また、「ホーム」の概念整理を補論3「『ホーム』とは何か」で行い、ホームレス支援と社会調査の関係を補論4「ホームレス支援と社会調査」で議論する。  第5章「ホームレスになるまでの経緯と自立支援の方向性」と第6章「ホームレス自立支援と社会的きずな」は、人がホームレスになっていくプロセスの分析である。ホームレス状態にある人は、貧困の連鎖や人的資本の低さから、不況など経済の構造変動による社会的排除を受けやすい人びとであった。また、排除とホームレス化の過程において、社会関係的な要因の影響が示唆された。こうした知見をもとに、自立支援の方向性について考察を加える。  第7章「アフターサポートつき自立支援住宅の効果」では、「アフターサポートつき自立支援住宅」の効果を論じる。自立支援住宅は、ホームレス状態にあった人が一定期間入居し、自立支援プログラムを通して支援者との社会関係を構築する場所である。「自立支援住宅」経由者は、そうでない元野宿者と比べて生きがいを感じる人が多く、孤立を感じる人が少ない。しかし、自己有用感は他よりも低く、そこに支援の課題が残っている。  第Ⅲ部「パーソナル・サポート・モデル事業と就労・社会参加支援事業――伴走型支援システムの展開と検証」では、福岡市で実施されたパーソナル・サポート・サービス事業と北九州市で実施された若年生活困窮者の就労・社会参加支援を扱う。この2つの事業を通して、伴走型支援システムがいっそう明確な形をとることとなった。  第8章「中高年生活困窮者へのパーソナル・サポート・モデル事業」。これは内閣府のモデル事業で、個別的かつ包括的な寄り添い型支援がめざされる。この支援の効果を各種データで分析した結果、たしかに多くの人の生活状態がこれによって改善されていること、とくに社会との関わりの回復に効果を持つことがわかった。  第9章「若年生活困窮者への伴走型就労・社会参加支援事業(2012年度)の効果と課題」。この事業で対象となった若年生活困窮者は、人生の早い時点でさまざまな排除を受け、日常生活や社会参加に大きな困難を抱えている人たちであった。そうした困難の大きさもあって、短期間の伴走型支援では大きな変化が見られない人もいたが、約4割の人で生活状態の改善が見られた。なお、この事業を通して、子どものときからの早期支援、同居する保護者への支援、そして社会的就労の場や居場所の必要性が明らかになった。これらの知見が、続く第Ⅳ部と第Ⅴ部の研究テーマに繋がっていく。  第Ⅳ部「『子ども・家族まるごと支援』による生活困窮の連鎖の防止」では、第10章「生活困窮状態にある子どもと保護者への伴走型家族支援」と補論6「『子どもの貧困』に包括的な伴走型家族支援で立ち向かう」で、生活困窮世帯の子どもと保護者の包括的支援の効果と課題を議論する。第11章「伴走型家族支援による高校中退防止事業の効果と課題」では、前章と同じスキームを用いて、高校中退防止事業の効果を測定する。不登校や引きこもりの子どもがいる家庭では、保護者もさまざまな課題を抱えていることが多い。子どもと保護者の状態が関連しあって負のスパイラルが生じているのであれば、両者の課題を個別的かつ包括的に支援することが必要となる。「まるごと支援」のデータ分析から、伴走型支援によって子ども・保護者ともに生活状況が改善されたこと、そして、子どもの状態が改善されると保護者の状態も改善される傾向があることなどが明らかになった。 なお、「まるごと支援」にはさまざまな他機関との連携が必要である。子どもの支援の場合、特に学校との連携が必要となる。この視点から、補論5「『子どもの貧困』に対する小学校教員の意識と態度」では、小学校教員へアンケート調査を実施し、子どもの貧困への関心や、NPOなど外部機関との連携の実態などを明らかにする。  第Ⅴ部「参加包摂型地域社会の形成に向けて」のテーマは、参加包摂型地域社会の形成可能性である。伴走型支援には支援のつなぎ先(受け皿)が不可欠である。そのため「抱樸」は、社会的就労事業所(「笑い家」という)を開設した。第12章「生活困窮者支援を通した参加包摂型地域の形成」では、この事業効果を基に、事業所を核とした就労困難な若者と、地域の独居高齢者と、衰退しつつある地域社会とが連合する社会(相互多重型支援)を構想する。また、第13章「『抱樸』の条件」では、「抱樸館北九州」の建設反対運動を事例として、参加包摂型地域社会の形成条件を議論する。その結果、「接触仮説」や「剥奪仮説」といった都市エスニシティ研究から得られたものと共通のプロセスが想定できることがわかった。  結章「『協セクター』による伴走型支援システムの意義と課題」では、ややマクロな視点からNPOが生活困窮者支援において果たす意義と課題を考察し、結論にいたる。社会を「官(国家)/民(企業)/協(NPO)/私(家族)」の各セクターからなる多元的モデルで捉えたとき、生活支援の主体として「協セクター」が優位性と可能性を持つことを本研究は明らかにした。結論として、伴走型支援システムが生活困窮者支援において一定の有効性を持つと言うことができる。}, title = {伴走型支援システムによる生活困窮者・家族の自立と参加 包摂型地域の形成}, year = {}, yomi = {イナヅキ, タダシ} }