@misc{oai:konan-u.repo.nii.ac.jp:00001771, author = {南野, 美穂 and Nanno, Miho}, month = {2016-06-15, 2016-06-15}, note = {平成27年(2015年度), 本研究は、発達障害を持つ思春期の子どもとその保護者への心理的支援のモデルを構築することを目的として、実践研究による支援の方法論の検討と、効果の検証の試みを行ったものである。発達障害を持つ子どもおよび保護者への支援は、幼児期における早期発見と支援を目指す子育て支援、特別支援教育という小学校を中心とする学校教育における支援の必要性が認識され、保健、医療、福祉、教育の連携によって発展している。しかし、思春期の子どもとその保護者に対しては、特別支援教育のなかで教員あるいは教員補助者による支援が行われているものの、保護者も含めた発達支援は、学童期までに比べて乏しいのが現状である。実践研究においても、思春期を対象としたものは、学童期までに比べて少なく、方法論の構築に至っていない。本研究は、その残された実践課題に、個人心理療法とグループ支援の二本の柱からなる実践を通して取り組んだものである。 論文は、問題の整理と研究デザインの提出からなる第Ⅰ部、個人心理療法の実践報告からなる第Ⅱ部、グループ支援事業の実践報告からなる第Ⅲ部、結果を踏まえて総合的に議論する第Ⅳ部の4部で構成されている。 第Ⅰ部では、まず、障害の概念、定義に関する先行研究を検討し、発達障害を、疾病概念としてではなく、発達マイノリティととらえる視点を採用する。すなわち、発達マジョリティと同様の発達課題を持ちながら、課題に直面する時期およびその発現様式の相違がもたらすマジョリティとのずれから、発達障害をもつ人が抱えるさまざまな困難が発生すると考える。続いて、その視点にたって医療と支援の現状を概観し、特に、思春期において顕著になる困難要因を、子どもの特性がもたらす、子どもの主体形成の遅れ、保護者との愛着形成の遅れによる同年齢の子どもとのずれの拡大、親あるいは教師などの他者から見た分かりにくさの増大としてとらえる。逆に言えば、困難の陰に隠れて見逃されやすい、主体形成と愛着形成の課題に対して適切な支援が為されれば、社会適応の可能性が高くなることが予想される。以上のように思春期における心理的支援の重要性を確認した上で、第一に個人心理療法による子どもの主体の形成過程の支持、第二にグループ実践による保護者との愛着関係および他者との関係修正という二つの実践からなる本研究の方法を提示している。 第Ⅱ部は、個人心理療法事例の分析である。主体の形成という観点から実践の有効性を分析するため、ここでは、思考thoughtsの発達理論として知られるBionの理論を援用している。Bionの図式によれば、心の素材以前の仮想的要素であるβ要素からα機能によってα要素が生み出され、それを素材として物語からより抽象的な概念へ思考が発展する過程を経ることが、能動的に考える働きの展開を表す。心身未分化な体験があり、それが包容され、消化され、意味が生まれることで、個人にとって意味のある体験となり、他者に伝達可能なものとなる。ここで取り上げられる3事例の子どもたち(男子)は、「からだと心の不連続」、「体験同士をつないで自分の物語を作ることの困難」、「有機的存在として他者との間で心の要素を伝えあうことの困難」といった、さまざまのレベルにおいて「つながることの困難」を抱えていた。意味づけられないままの体験が優越することで、ある程度統合された体験の主体という感覚を持つことができないことにつながっていると理解できた。 その理解に基づき、著者はセラピストとして、クライエント一人では抱えられない未分化な心的要素を包容しつつ、消化や意味づけが生まれる過程を支える機能を、まずは彼らに代わって担い、次第に彼ら自身が自身の体験を包容できるようになるよう関わった。過程における変化のアセスメント手法としては、風景構成法を用い、高石の発達段階モデルと、自己像の形成に注目することで、思春期にある彼らが、知的には年齢相応の発達を遂げている一方で、体験のまとまり、自己を捉える視点という意味では、およそ小学校低学年段階にとどまっていたこと、著者のかかわりの過程で彼らなりの発達を遂げていった過程が観察された。 3事例の分析に基づき、体験をつなぎ合わせて一貫した自己像を形成することが思春期の発達障害の支援の一つの核になること、それを支える個人心理療法の枠組みを維持することの意義が確認されるとともに、その枠組みを継続的に提供できる場は数少ないことが課題として指摘された。 第Ⅲ部では、発達障害をもつ思春期の子どもとその保護者を対象としたグループ支援の実践報告に基づいて、発達障害に対してグループ支援を用いた先行実践研究を参照しつつ、支援において集団が持つ機能が考察された。小学校高学年になった発達障害のある子どもの愛着と仲間関係への欲求満足は、幼児が子ども社会へ足を踏み出す時期の養育者役割に相当するサポートによって促進されるという仮説、および保護者が適度な距離を保ちつつ子どもの欲求を理解する機会の必要性から次の形態が採用された。すなわち、子どもと保護者それぞれのグループワークを別室で同時間に並行して行いながら、子どもグループには、子ども一人について一人のサポーターが配置され、保護者グループにはファシリテーターとして1~2名のスタッフを配置した。グループ活動のプログラム内容は、先行研究を参照して設定したうえで、活動を実行しながらの検討、修正が重ねられた。 プロセスの分析と効果検証は、三つの方法で行われた。第一に、グループにおける一人の子どもに焦点を当てた、子どもの変化とグループおよびサポーターの機能の分析。第二に、保護者グループ内における母親の語りの分析、第三に、保護者に対する半構造化インタビューによる検証である。 第一の分析では、プロセス記録に基づき、サポーターの機能を「フィードバック機能」と「スキル指導機能」の二つに分け、前者が子どもの二者関係への欲求を受け止めること、後者が仲間関係への欲求を満たせる方向にサポートする役割を果たすと理解された。その両者を合わせることで、幼児期の養育者役割の代理をサポーターが果たしていると考えられた。 第二の分析では、思春期の子どもが示す愛着欲求に対する戸惑いという共通のテーマが見られるとともに、直接の関わりでは受け入れにくいその欲求を、間にサポータ―という養育者代理を置くことで理解する過程が見られた。この過程を、幼児期に、砂場において一定の距離のもとで子どもが子ども集団に入るのを見守るのと同等の体験が、本グループ支援が提供する構造によって可能になると考え、「砂場体験」と名付けた。 第三の分析では、ある期のグループ活動の開始前と開始後の参加者への半構造化インタビューの内容を、KJ法を用いて整理した結果、「安心できる場」「自己肯定感」「ほどよい親子関係」「将来への展望」「課題の明確化」の五つの効果を参加者が感じていることが分かった。また、この結果を、第一の分析による子どもの内的体験および第二の分析から抽出された「砂場体験」モデルに統合して、本支援グループの全体像を示すモデル図が描かれた。 第Ⅳ部では、「主体の生成」、「関係の形成」という本研究の視点から、実践報告をもう一度振り返っている。主体の生成が主題となる個人心理療法では、まだ原初的な体験世界にとどまっている子どもに対し、その体験世界を共有しようとしながら包容することと、原初的な世界にとどまっている仮の主体を心の中に思い描きながら居続けることがセラピストの役割であるとする。後者では、構造化されたグループの中で、子どもにとっては具体的な支援を得ながら育てられる体験を持つこと、親にとってはサポーターを介在しながら象徴的な子育て体験を持つことがその機能であると結論づけられた。 最終章には、モデル形成のための探索的研究であるための効果検証の限界と、ここで得られたモデルを用いた実践的展開などの今後の課題が指摘されている。}, title = {発達障害をもつ思春期の子どもと保護者への支援 ―主体の生成と関係の形成に注目して―}, year = {}, yomi = {ナンノ, ミホ} }